■気になる視線■




「金ちゃん、朝練はもっと早く来ないとあかんよ。
 次遅刻したら絶対駄目やで?」


「えーあかんのん?白石〜!」


「あかんの、分かった?」


「でもわい寝たい〜。」


またや。


また白石、金ちゃんの事気にかけとる。
最近いっつも白石と金ちゃんが一緒におる。
金ちゃんはまだ子供で白石に
色々と注意されるんはいつもの事やけど、
それでも何や腹立つ。

白石は部長として金ちゃんを
気にかけてしつけとるんやとは思うけど。

それにしても金ちゃんも金ちゃんで
何でいっつも同じ事言われとるのに
直せへんのやろう?
白石も部長としてっちゅうだけで
あそこまで構うやろか・・・。


金ちゃんが入部して、
俺達が三年になった時から変わった。
俺達が二年の時と比べたら、
やっぱり白石が俺より金ちゃんに構うようになった。
そのせいか分からんけど、何やつまらんのやもん・・・―――


「白石、早う練習せんとお前の練習時間なくなるでぇ?」


嫌味のように言ってやる。
白石はこっちを見て、言う。


「何や謙也、自分こそこっちの心配せんと
 練習せな時間なくなるで。
 謙也の方こそ最近練習に集中できてへんやんか。
 人の心配してる暇あるんやった
 自分の事済ませてからにせんとあかんで。」


・・・何やもう。白石まで腹立つ事言うし。


「あっそ。分かったわ。
 何ややる気せぇへんから俺今日これで帰る。」


「は?何考えとるんや謙也、
 やる気せぇへんからってそらないやろ!?
 最近の謙也変やで?えぇ加減に・・・―――」


「ほなな。」


やって何やほんまにやる気せぇへんもん。

白石は金ちゃんにばっか構うし、
そのせいで自分の練習できてへんし・・・。
部長の白石も監督のオサムちゃんも指示出さんし。
別にせやからどうって訳ちゃうけど・・・―――


「謙也・・・っ!」


「おやおや大変やないの、あら謙ちゃんかなりキてるワヨ?」


「白石えぇん?謙也相当怒っとるで?」


「謙也・・・。」


「白石〜!何処行くんや?わいも・・・―――」


「金ちゃんは練習しとって、俺謙也止めてくる!」


「分かったー!」


白石が行った後、ひそひそと話す影。


「妬いたのネ、謙ちゃんったらかーわえぇの!」


「浮気か?!死なすど!」


「あん違うワヨ〜!」



〔部室〕


俺はテニスコートから離れ、部室に向かう。
最近白石金ちゃん金ちゃん、
金ちゃんばっかりやんか・・・。
練習に身ぃ入ってへんくせに自分こそ人の事言えるんかいな。

あぁ腹立つ。
ただでさえ苛々してんのに白石にあんな事言われたせいで
ものごっつ機嫌損ねたわ。さっさと帰ってまお。

そんな事を考えていた時に、
部室のドアが勢いよく開いた。


((―――ッバン・・・ッ―――))


「謙也・・・!」


ドアの向こうには今一番見たくあらへん顔があった―――白石。

俺を追ってきたんやろう、息切らしとる。
まぁ練習戻れ言うても戻る気はさらさらないけども。


「何や、部長なんやしさっさと練習戻ったら
 えぇんとちゃうの?
 俺は用事あるから帰るんやし・・・―――」


嘘を吐く。

そうでもせな白石は俺に戻れ言うてしつこいだけや。
戻る気はあらへんし、もう面倒やし・・・。


「・・・用事・・・?あぁ何やそうやったん?
 それならえぇよ、ごめん。
 悪いな引き止めてもて。」


・・・は?
もしかして今の俺の言葉、信じとるん・・・?


「あ・・・あぁ。」


「良かったわ〜・・・。
 俺謙也に嫌われてもたんかなって思って
 びっくりしたわ。」


「は?」


何言っとるんやこいつは。

最近は白石の方が金ちゃんの事ばっか
気にかけとったんやんか。
せやから俺も腹立って・・・―――否、ちゃう。

俺が勝手に腹立てとっただけや・・・。


「いや、金ちゃんが入部してから謙也、
 俺と話さなくなったやろ?
 声かけても素っ気ない感じしとって少し不安やってん・・・。
 でも良かったわぁ〜、
 謙也に嫌われてるんとちゃうんかったみたいやから。
 せやな、・・・謙也も色々忙しいんやし、
 俺と話しとっても・・・―――」


「白石・・・っ!」


((―――フワ・・・ッ―――))


「け、謙也・・・!?」


・・・気付いたら白石を抱き締めとった。

白石は柔らかくて、抱き締めると髪も頬に触れて心地良い。
俺が、俺の方が白石を不安にさせとったんか・・・?


「何、どないしたん・・・ッやめ・・・誰か、来るって!!」

「・・・白石・・・、俺の事好き・・・?」


「なっ・・・!
 な、何突然恥ずかしい事訊いてんねんっ・・・―――」


「えぇから答えて?」

耳元で小さく言うと、白石の抵抗がなくなる。

横目で見とっても頬染めとるのが
よう分かるくらいに白石は赤面しとって。
綺麗で、可愛らしくて、ずっと眺めてたい。
そんな衝動に襲われる。


「・・・・・・そんなもん・・・
 嫌いやったら、つ、付き合わん・・・、し・・・!―――」


ぽそりと、呟く程度の声量ではあったけども、嬉しくて。

・・・やって、ほんまに可愛えぇもん。
俺と目を合わせんで、顔赤くしてそう言うし。


「そんなら何で最近金ちゃんばっかり構って
 俺に構ってくれへんの?」


意地悪く訊いてみる。
すると、白石は俺とすぐ目を合わせて答える。

否、訊き返してきた。


「・・・謙也、もしかして妬いたん・・・?」


「多分正解。」


にっこり笑ってそう答えると、
今度は少し困ったような顔して白石が俯く。

そして呟いた。


「あ・・・、ごめん・・・な・・・?―――」


・・・可愛えぇ。マジで可愛えぇ。


「あぁ、別にもうえぇんやで、そないな事は。」


「えっ・・・?」


次の瞬間で、白石の顔をちゃんと見て、
口元にに触れるだけの口付けを。


「・・・白石は俺のもんやし、俺は執念深いし?」


案の定白石は目を丸くして、顔真っ赤にして俺を見る。


「そ・・・え・・・あ・・・も、もうえぇわっ・・・!」


照れ隠しなのか、
すぐに俺から離れて白石は部室のドアに向かった。
ほんまに可愛ええやんなぁもう。


「少ししたら練習戻っとくから待っとき〜!」


「うるさい!!」


((―――バタンッ・・・!―――))


勢い良くドアが閉まる。

・・・ほんまは気付いてなかった訳ちゃうんやけどな。
俺が練習しとる時の、あいつの視線。

俺の方が白石を見とる時は殆ど金ちゃんと一緒やけど、
俺が練習しとる時はちゃんと見とるんやもんな。

なぁ、せやろ?―――白石。




+END+

初謙蔵。甘過ぎた。爆

ここまでお付き合い下さった方、本当に大感謝です!