■アメノチハレ■
((―――・・・ザーァ・・・ザー・・・―――))
何だか最近雨の日が長く続いている。
俺は雨の日が好きじゃない。
だって外走り回れねぇし部活もできないじゃんよ。
橘さんがこの不動峰中にいて、
俺達と部活をする事ができるのはもう少ない。
一年もないんだ。
・・・嘘。
本当は、部活に行かないと
あいつに会えないから嫌なんだ。
学級も違うし、付け加えて教室も遠い。
授業で一緒になる事も全くと言っていいほどなくて、
唯一あいつに会えるのが部活だけだ。
それなのにこう雨の日が続くと
グラウンドも濡れまくってて
当然、テニス部という外の部活は停止になる。
勿論野球やらサッカー、
陸上も停止にはなるけどさ・・・。
どうも、俺はあいつに会えない時はリズムが狂っちまう。
「・・・お、神尾!」
「うぇあっ!?」
突然名前を呼ぶなよ、びっくりしちまうじゃねぇか!
・・・って、今授業中だったんだっけ。
「何を妙な声をあげている、早く読め。」
「・・・え・・・読め?」
やっべ、何か指示されたのか?俺・・・。
「・・・教科書一四五ページの九行目だよ、神尾・・・―――」
隣の席の森が俺にページ数を教えてくれた。
「あ、おぉサンキュッ!助かったぜ・・・。」
危ねぇ危ねぇ・・・、
先公どもは細かい事うるせぇからな・・・。
えーっと一四五ページの・・・―――
「一九一〇(明治四五)年、
日本は韓国を併合し、
朝鮮総督府を設置して・・・―――」
「・・・神尾、お前はそんなに社会科の勉強がしたいのか?」
「え?」
言われて黒板とに書いてある字と
今自分の手に持ってる教科書を見比べてみる。
黒板にはには『Lesson8-3』と書かれていて、
今俺が持ってる教科書には
『4.韓国と中国』と書かれている。
・・・マジ?
当然の事な訳だけど、
次の瞬間しらけてた教室中が笑いでざわめく。
どうやら俺が間違えたらしい。っつーか絶対そうだ。
やべぇ恥ずかしー・・・。
見れば先公も英語の田中だ。
呆れた顔で俺を見下ろしてんだけど・・・
―――あぁだっせぇよもう〜!!
「神尾、そんなに社会科を勉強したいなら廊下でやってこい!」
((―――ッガラッッ!!―――))
〔廊下〕
あぁ〜・・・廊下に出されちまった・・・。
マジで相当頭にキてただろうなァ田中。
あいつの事考えてて授業聞いてなかったとか・・・
俺どんだけだよ。
空は相変わらずの悪天候で腹が立ってくる。
雨が降る音は物凄く不快な訳で。
地面を叩きつけるような尋常じゃない降り方。
窓に真正面からぶつかってくる大量の水。
マジでやってらんねぇよ。
リズムが狂うどころじゃねぇ。
何か無性に腹が立つ。
雨雨〜俺の心も止まない雨〜!・・・やめた。
虚しいだけだ。
だーめだ、調子のらね。
「・・・何一人で百面相してるんだよ。
相変わらず訳分からないよなぁ神尾って。
ていうかそれ以前に何で授業中に
廊下に出てるんだって事だよな。
まァ大方授業まともに聞いてなくて
立たされてるってとこだろうけど・・・―――」
「えっ・・・―――」
このぼやき、あいつだ。
言う事はキツイけど
きっと本人には悪気はねぇんだろって
思っちまうこのぼやき。
もう癖みたいなもんなんだろうけど。
「深司!?」
「あぁ、やっぱ神尾だったんだ。」
そこには予想通りの人物の影があった―――伊武深司。
俺と同じ学年で、同じ部活の仲間。
入学した時から思ってたけど、
こいつ男にしてはやたら綺麗な面してんだよな・・・。
一年の時は俺と深司は学級も一緒だったのに、
二年になってから分かれちまって、
会える時間もかなり減った。
会えるのは部活の時間だけになったんだ。
一年の時、深司に部活どうするか聞かれた訳よ。
俺は足にも体力にも自信あったし、
最初からテニス部に入ろうとは思っていた。
でも、聞かれてから思った。
俺、何かこいつと同じ部活に入って
頑張ってみてぇって。
俺が深司に一応テニス部だって言ったら、
深司が言ったんだ。
『俺まだ決めてないんだよなァ・・・。
あ、でもテニスもいいかもしんないよな。
別に何でもいいけどさァ・・・
神尾と同じ部活でやってみたいかもなァ・・・。
あ、やっぱやめようかな・・・
別に俺が神尾に合わせる必要なんてないし。
あ〜でも部活には入ってた方がいいよな・・・―――』
当時は何を言いたいのか分からなかったけど、
最終的に深司が俺と同じテニス部に入ったのは事実だ。
その時は、マジで嬉しかった。
深司と会えたり話せたりできる時間が増えるって、
もう頭ン中それだけだった。
・・・あの時から、ずっと片想い。
否、実際男が男に好きだとか
片想いだとか言うのはおかしいと思うけどな?
・・・でも何か、分かんねぇけど特別なんだよ。
「・・・で?何で神尾、授業中廊下にいるのさ?」
「え・・・ああぁ・・・えっと・・・―――」
ンなもん言えるか!!!!
『深司の事考えてて授業に集中できなくて立たされた。』なんて
死んでも言える訳ねぇから!!!
「そ、それより!
深司こそ何で授業中に廊下立ち歩いてんだよ?」
「あぁ〜・・・何でだろ。」
そうだ。
いっつも深司は自分の事は何も言わねぇんだ。
人には質問しといて、自分の事は殆ど教えてくれない。
何だよ、俺には言っても意味ないって、
そういう事かよ・・・?
俺は無意識の内に表情を暗くしていたようだ。
次の瞬間深司が口を開いた。
「・・・・・・何でそんな顔されなくちゃいけないんだよ・・・。
別に神尾がそんな顔する必要ないじゃないか・・・。」
「え・・・?」
「・・・俺は、今の時間、
数学の教科連絡で先生が授業に使うのに
職員室に忘れたものを取りに行ってただけ。
・・・・・・言えば良かったんだろ?
俺の事。で、神尾は?」
呆れているのか、声に少し弱さが入ってた。
どうしたんだろ、深司・・・
―――俺変な事聞いちまったのかな・・・。
「・・・神尾、今日も部活休み。
前お前が俺の家に来た時に単行本とCD何枚か忘れて行ってる。
何かずっとあるの目障りだからさ、放課後俺の家寄って。
で、全部持って行って。」
「・・・あ、あぁ・・・分かった。」
何だよ、目障りって。
忘れて行ったのは俺の不注意だけど、
そういう言い方しなくたっていいじゃんよ・・・。
少しは、何か言い方考えてくれねぇと・・・、
何か、傷付いた。
俺ってやっぱ深司に嫌われてんのかなぁ・・・―――
「・・・あぁー・・・神尾ってさぁ・・・
時々―――いや、何でもない。
じゃあ、今日の放課後玄関で。」
そうとだけ言って深司は俺に背を向けて
自分の教室に向かった。
あぁもう俺やっぱ明らかに片想いだよ〜・・・。
俺の中の雨が、嵐に変わる。
外の天気と共鳴してるみたいに、雷が響く。
雨が胸を打ちつける。
雨がリズムを狂わせる。
雨が・・・―――
NexT