■革命の蒼穹<\>■
「おい、てめぇら一体何してンだよ!!」
その時不意に聞こえた、高い声。
目を塞がれていてよく分からないけれど、確かに女性の声だった。
――胡蝶?
――否、違う。
胡蝶の口調は変わってはいるけれど、ここまでは乱暴ではない。
「あァーん?誰だ、てめぇ!!」
「うるせぇ、てか今時下着それかよ?
うっわだっせぇ。しまえやソレ。」
どうしよう、いくら強気な女性と言っても、
こんな男五人がかりで一人の女性が勝る訳がない。
でも今、僕が何か出来る訳でもないのだ。
自由が奪われている。
どうしよう、僕に何か出来る事はないだろうか・・・大事になる前に。
「うるせぇ、邪魔すんじゃねぇ!!女は引っ込んでろや!!」
「あ?それとも何だ?お前も犯られにきたのかよ?
へへッそういう事なら・・・――」
((――・・・ドガバギィイいぃイッッ・・・!!――))
「ぐっはぁあアアッ・・・!!!」
「えッ・・・!?」
突然物凄く鈍い音がして、一人の男の悲鳴が校舎裏に響いた。
その音を追うように、今度は男が地面に叩き付けられたような音が続いた。
「きっさまぁああぁアッ・・・!!
女のくせにざっけんじゃねぇえッ!!!」
「あァ?『女のくせに』・・・だって?」
「あ?」
女性の声のトーンが少し低くなり、
怒気が篭ったのが確実に分かった。
「『女のくせに』ってよ?
ンな男尊女卑みてぇな事は無償に腹立つンだよ・・・ッ!!
女に負ける男だっているって、今ここで証明してやろうか?」
「なッ・・・――」
「てめぇらの・・・カラダでなぁああアッ!!!」
((――・・・バギボギヴァッギッ・・・!!!――))
「っはぁあああアァあッッ・・・!!!――」
「ぐッ・・・がぁあああぁぁあアアッッ・・・!!!――」
また、物凄い鈍音と同時に、地面に男が叩きつけられる音がした。
今度は二人同時に、だ。
「あン?次はどいつだ?
・・・てめぇが馬鹿にしてやがる、女に負けるのは・・・よォ?」
「こッ・・・こいつ・・・何者だ・・・ッ!!?」
「ヤベェッ・・・こいつヤベェよ・・・ッッ!!!」
((――・・・タッ・・・タタタタッッ・・・――))
足音から見るに、恐らく残りの男が逃げたのだろう。
「けッ!弱っちぃくせにイキがってンじゃねぇよ、阿呆が。
おととい来やがれバーカ!!」
その乱暴な言葉の後、すぐに僕の両手首が開放され、目の前の闇も晴れた。
そしてそこに立っていたのは紛れもなく、一人の少女だった。
「あいつらに何か、されたのか?」
真剣な目で、僕の目だけを見据えて彼女が問う。
少女は右肩にスケボーを抱え、
背までの長くて少し色素がない銀髪を靡かせている。
制服は男子用のものではあったけれど、彼女は確実に少女だった。
猫の様な瞳は深い藍色で、まるで深海の闇の様な色。
日本人ぽくはないけれど、何処か神秘的な雰囲気があるのは確かだ。
「・・・?どうした?」
「えッ・・・あ・・・いや・・・別にッ!!」
「・・・ふン・・・面白ぇ奴だな、お前。」
その時微笑んだ表情は、物凄く綺麗で。
男である僕も見惚れてしまう程、格好良かった。
勇ましい戦士、勝利した後の、
自分の栄光を称えるかのような微笑み――
驚くほどだった。
「え・・・あの・・・――」
「・・・にしてもよォ、お前本当に綺麗な面してンのな。
こりゃァ確かに男が欲情すンのも無理ねぇな、<分かるぜ。」
――助けてくれてありがとうと一言、お礼を言いたかった。
「た、助けてくれて・・・――」
「あァー・・・お前ホントそこら辺の女とは比べモンにならねぇ程
綺麗な面してんぜ?
自覚ねぇだろ、なァ?お前そんな感じだしよ?
よく鈍感だとか言われねぇ?」
「あのォ・・・――」
彼女は僕に言葉を発させてはくれないまま、
一方的に話を進めて行くのだけれど。
――でもまぁ、善い人そうだからいいかな。
口調は胡蝶以上に変わっているけれど。
「お前、名前は?」
唐突に聞かれ、驚く。
「え・・・?」
「お前のな・ま・え!だよ。」
「か・・・霞猪・・・。」
「ほー?良い名前じゃねぇか。」
そう言って、また微笑みかけてくれる。
この笑顔が本当に格好良くて、呑み込まれそうになるのだ。
本当に綺麗で、格好良くて、憧れてしまう。
「じゃ、歳は?」
「えと・・・高等部二年・・・。」
「ンじゃクラスは?」
「二年四組・・・。」
「女歴は?」
「え・・・ない・・・―――って!何言わせるんですか!!!」
一人ノリ突っ込み。
「あっはっは!やっぱお前面白ぇよ!
気に入った、オレは高等部二年の妃零、ヨロシク?」
そう言ってにかっと笑い、彼女は僕に背を向け、
スケボーに乗って坂を下り、また降りて、
何時の間にか彼女の背はもう見えなくなっていた。
――お礼、言えなかったな・・・――
そんな事を考えていた。
しかし、『高等部二年』と言えば、僕と兄さんと胡蝶の三人と同じ年代だ。
それなのにこの少女には全く見覚えがなかった。
まぁ、僕自身あまり教室の外に出るタイプではない。
もしかしたら他学級の生徒なのかもしれないけれど。
もし今度会う機会があったならば、改めてお礼を言おう、
このままでは気分が悪い。
「やばっ・・・早く教室行かなきゃっ・・・!」
そして僕は、その場からすぐに立ち去り、
教室へと向かった。
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