■抜き取られた夜の記憶■




僕が彼女を知ったのは、つい最近の事だった。

彼女は物凄く綺麗で、そしてとても品があって、頭が良い。

この前音楽科の授業では、
僕達の見本としてヴァイオリンのソロ演奏を指名されていたし、
家庭科では調理実習、裁縫、
全て完璧な仕上がりだったのを覚えている。

彼女はとても綺麗で、本当に人形のような人なのだ。
こういう人材を、『完璧』というのだろうか。

彼女は、瞳が左右で異なる色をしている。

右は紅、左は黄・・・

――なんて綺麗な瞳なのだろう・・・――

銀色の長い髪にはカールがかかっていて綺麗ではあるし・・・。
その髪を一層装飾する、真紅のカチューシャとヘアピン。

漆黒と真紅の学園指定制服がよく似合う。
黒い布地に胸の紅いリボン。
女子は皆同じ制服を着ているはずなのに、
彼女だけは違う世界の人間のようなのだ。

何故だろう・・・?――
物凄く惹かれてしまうような雰囲気を彼女は持っていた。
しかし、近付きづらい雰囲気だって持っていた・・・――

もう暫く、同じ教室で同じ授業を受けている。
それなのに、物凄く近付きづらい雰囲気があるのは事実だ。

――だって彼女は、誰とも話さない。

無表情のまま、
何かを言われても相手を見据えるだけだから。

双子の兄と初等部の初めから転校してきて、
兄姉で今までずっと学年一位をキープしている。
頭は物凄く良いはずなのに、
授業中先生に指名されても無表情でただ首を横に振るだけだ。

微笑んだ表情を、見た事がない。

授業で先生に物凄く褒められても、眉一つ動かさない。
テストで学年一位を取っても、口元を僅かも動かさない。

どうして・・・――何故?

僕が彼女のプライベートを密かに調べる事はないけれど、
それでも気になる。


どうしたら、笑ってくれるのだろうか?
どうしたら、話してくれるのだろうか?

僕は最近、いつもその事で頭が一杯になっている。


「他人の事・・・とやかく言う筋合いなんて僕にはないけれど・・・――」


小さく、独りきりの教室で呟いてみた。


「唯乃君・・・――」


そっと、透き通る声――

誰のものかは分からないけれど――

確信はなくても――

まさか・・・――


僕は、静かに声のする方へ視線を向けた。

――そこに、立っていたのは・・・――


「・・・雹・・・零霤・・・さん・・・?――」


無表情ではあったけれど、そこには彼女が立っていた。
左右異なる瞳の、銀髪の少女・・・――雹零霤セレナさんだ。
あの、人形のような少女・・・――

夕陽に照らされた彼女は、
いつもより一層増して綺麗に立っていた。
表情は、ないのだけれど。





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