―――「謙也?」―――

■ユメノアトデ■




夢を見た。

蔵が俺から離れる夢を。
何の前触れもない、ただ、恐怖を・・・―――


『謙也!』


『何や、白石?』


ただ神経質になっているだけかもしれない。

しかし、白石が俺から離れる要素が
夢の前後であった訳でもなくて、
学校で今日何かがあったという訳でもないのに・・・。

何故、なのか―――


『・・・オレと、もう別れてくれへん?』


『は!?何やねん突然!?』


『もう謙也とおるの飽きたし、
 オレ他に好きな奴おるのやもん・・・』


突然言われて、驚いた。

最初は、夢か現実かも区別がつかなかった―――
俺は白石の事だけ考えていて、
他は考えていない・・・はずなのに。

別れる要素は・・・―――
否、あるとしたら俺の方に・・・?


『ちょっ・・・、考え直してや・・・ッ!』


『今更無理、バイバイ』


『ちょっ・・・―――』


―――・・・もしかして、
俺が白石を信じられないでいるのやろか?


いや、んな事ある筈がないっちゅーねん!!
学校行ったら訊けばえぇねん!!

朝から、気分が悪かった。
白石が、俺以外のところへ行く・・・
なんて、考えたくない。
俺も、白石だけやから・・・

―――それなのに、何でや・・・?


((―――タタタ、タンタン・・・―――))


「謙也ぁ、早よせんと朝練遅れるで?
 白石君に怒られるでー?」


―――白石君―――


「あぁ、分かっとるから心配しなくてええで!
 少しくらい遅れても白石優しいから多分大丈夫や」


確証はない、けれど、あれは、夢だから・・・―――

朝練に行っても、
きっといつもの白石でいてくれると思う・・・―――
実際は・・・分からない、けれど。

白石は誰にでも優しいから、俺が告白した時も・・・、
哀れみで了承してくれたのかもしれない。

実際、俺が蔵を大切に思っている程、
蔵は俺の事を考えてはいないかもしれない・・・。



【通学路途中】

「あかんっ・・・後もう少しで朝練始まってまう・・・ッ」


((―――ドン、ッ―――))


「ぅわっ・・・―――」


考え事をしていたせいだろうか、
人にぶつかってしまった。


「ったぁ・・・―――何処見て歩いてんねん!
 ちゃんと前見て・・・―――」


「あ・・・ごめん、謙也・・・」


考え事の原因の、
張本人がそこには立っていた。
お互い尻餅をついてしまっていて、
路上に座り込んでいる。


「・・・白石・・・?」


「うん・・・、怪我、ない?ほんまにごめんな・・・?」


ゆっくり手を差し伸べてくれる。
やっぱり、白石は優しくて暖かい。


「お・・・おう・・・、
 俺は大丈夫やけど・・・白石大丈夫・・・?」


「・・・ん、大丈夫や・・・―――」


しかし、差し伸べられた手が
何処かおどおどしていたのが
少ししてから分かった・・・
―――やっぱり、面倒なのやろか・・・?

考えてみれば、白石も何処か悩んでいるような、
困っているような表情をしている。

・・・せや、可笑しい言えばこの時間、
白石が朝練に遅れるような時間にこの場所にいる事もや。

白石は、いつも誰よりも早く練習に来ているのに、
今日は違う。

どないな・・・事、やろか・・・?


「でも・・・白石、血・・・―――」


白石が、右肘を怪我していた。
擦り剥いたらしく、血も出ている・・・―――


「あっ・・・や・・・大丈夫、大丈夫やから・・・っ!」


差し伸べていた手を思い切り引いて、
逃げるように見えた。
・・・俺を避けているように、見えた。


「・・・分かった・・・。
 大丈夫、一人で立てるで・・・早よ部活行こか・・・」


「う・・・ん・・・、せやな・・・」


避けられている、と考えるのが嫌で、
俺は白石より先に走って学校へ向かった。




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