―――『あっ・・・や・・・大丈夫、大丈夫やから・・・っ!』―――

■ユメノアトデ




今の・・・普通に考えて拒まれたんやろなぁ〜・・・。
何や、自信なくなってきた・・・

―――夢の通りに、なったらどないしよか。

白石が、俺から離れていくようなあの夢の通りに。


「・・・謙也・・・―――」


夢の通りに、離れて行ったら―――
俺は、どうするのだろう・・・?
白石に拒まれて、今、考えるのはそれだけだった。


ただ走って学校へ向かい、
白石がいる後ろは僅かも振り向かなかった。

・・・これはただの我侭かもしれないけれど、
俺は白石を独り占めしたいだけで。

白石が俺から離れても、俺は追いかけて、
絶対に捕まえるのだと決めていた・・・。

でも、今それを実行しようとしても不可能だ。
俺にそんな度胸がない事、
捕まえる事ができるという自信がない事、
確信がない事・・・色々な事が頭の中を駆け巡る。

捕まえてもまた逃げられてしまうかもしれないと、
俺自身が何処かで思っているのかもしれない、
引っかかっている。

蔵の、本当の気持ちが分からない・・・―――



【部室】

「おはよー謙也ぁあー!!」


「ぅわっと・・・金ちゃん、今日は早いなぁ?
 金ちゃんが朝練に遅れないんは珍しいわ」


「せやろー!
 今日は光が迎えに来てくれたんやで!」


光が・・・?そら珍しいな・・・。
そういう風の吹き回しやろ・・・?


「おはようございます謙也さん」


「おぉ、お前がわざわざ金ちゃん迎えに行くんは珍しいな、
 何かあったん?」


「あぁ・・・別に。
 ただの気まぐれっスわ、悪いですか?」


「別に悪くはないけど・・・」


ほんっと無愛想なやっちゃなー・・・
まぁ嫌いやないけど。


「謙也おはよ」


「うわ千歳っ・・・
 いきなり背後に立つなや・・・っ!!」


白石といい光といい千歳といい・・・
何や今日は俺も含んでみんなおかしいな・・・。

背後に立たれて気配感じないはずあらへんし、
光は金ちゃんわざわざ迎えに行ったらしいし・・・
白石は遅れるし。

珍しい事だらけや・・・―――


「あらぁ謙也君!おはよっ!
 どうして息切らしてるの〜?
 うふふっ可愛いわぁ!」


「浮気か!死なすど!」


「やんっ何行ってるのぉ、アタシはユウ君だけよ!」


・・・あぁ〜・・・小春達はいつも通りやな。


「でも白石がまだ来てなか、珍しかね」


「っ・・・」


白石は、きっともう少し遅れてくる。

できれば白石が来る前に練習に入って、
顔を合わせたくない。
けど白石は部長だから、
練習メニューを任されている存在。

白石が来なければ練習を始めようにも始められない。


「白石遅い〜・・・死んでないやろか〜・・・
 なぁ謙也ぁ〜!」


「うっさいわ!白石の事なんか知らんし!
 俺に聞くなや!めんどくさい!」


「え・・・?」


―――あ、あかん・・・。


「・・・謙也・・・?」


―――ストレスや・・・。

俺の我侭や・・・、あかん・・・。
何・・・関係ない金ちゃんに当たり散らして・・・
やばい、限界なんや。


「・・・白石の事、嫌いなん・・・?」


「っ・・・別にそういう訳やあらへんけど・・・―――」


白石を好きだと、
思っていたのは自己満足か。
相手を信じられていないのは、俺の方・・・?


「俺練習行ってくる」


((―――バタンっ・・・!―――))


「謙也・・・何でやぁー・・・?
 白石の事・・・―――」


「あらあら・・・大丈夫よ、金太郎さんっ!
 謙也君は待ち時間が嫌いだから、少し怒ってるだけや・・・、
 蔵リンの事が嫌いな訳じゃないわ、
 だから泣かなくて大丈夫よ・・・?」


「・・・ちょっと俺行ってきますわ」


「え・・・、ひか・・・―――」


「当り散らされるんはこっちが迷惑ですし」


((―――バタン・・・―――))



【テニスコート】

・・・何や、みんなして白石白石って・・・―――
腹立てとるんはこっちの方やっちゅーねん。


「謙也さん」


((―――トン・・・、トン―――))


「・・・何や、邪魔やで」


光の声。

今口を利いたらまた当り散らすだけだと思う。

顔は振り向けずに声だけ聴いた。


「・・・当り散らすのやめてくれません?
 うざいんで。」


「お前に関係ないやんか、
 無駄口たたきに来たならあっち行けや」


「ふーん・・・まぁえぇけど・・・、
 部長と何かありました?」


「っ!」


光の一言一言が頭にくる。
白石がどうしたっちゅーねん、うざいのそっちや。
ったく、白石が心配なら白石に訊けや・・・

―――白石の名前聞きたくないわ。


「つかそれしかないですよね?」


「うるさいって言ってんねん!!
 お前俺に何が言いたい訳や・・・!!」


どうしようもなく腹が立った。
当たる気はなかったのに、
こいつの言い草を訊いているとむかつく。

・・・勢いで、振り向く。


「あぁ、やっとこっち見ましたね。」


「は・・・?」


不適に、笑った。




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