―――「ふーん・・・まぁえぇけど・・・、部長と何かありました?」―――
■ユメノアトデ■
「・・・何やの・・・?光・・・、ほんまに。」
光が憎たらしい口を叩くのは
珍しい事ではないけれど、
何だか今日は様子がおかしい。
いつもの感じがなくて、
何か・・・、怖い感じがある。
「別に・・・ただ、機嫌が悪い謙也さんに、
言っておかなあかん事ありまして。」
俺に、言っておかなければいけない事・・・?
光がいつもと違うのは分かっているけれど、
嫌な予感がした。
・・・白石に何かあったんやないやろかって、
そんな気がしてくるのや・・・。
何・・・?
「・・・だから、
俺に言っておかなあかん事って何やねん、
早く言えや・・・!」
嘘だ、本当は聞きたくない、話さないでほしい、
嫌な、予感が的中しそうで・・・―――
なのに、何故俺は聞こうとしているのだろうか・・・、
何故、聞きたくもない事を
問い詰めるのか・・・―――
「・・・前、部長、
謙也さんの事で泣きついてきたんやけど・・・、
俺に。」
「・・・え・・・?」
「その少し前に、
部長が男と裏庭におるの見ましたけど・・・。」
男と、白石が一緒にいた・・・?
裏庭と言えば、人が滅多に来ない場所や。
そんな場所で、
男二人で何を話していたのだろうか・・・?
想像すら、できないのに。
それと白石の行動と、何かがきっと繋がっている。
今日の朝の態度も何処かおかしかった。
俺を避けている感じだった・・・―――
そして、別の男とおったらしい。
やっぱり、俺の一方的な片想いなんやろか・・・今でも。
「・・・もうえぇよ、光・・・―――分かったから。」
「・・・あぁ、そうですか」
「うん・・・、もう当り散らさんし、
嫌な思いさせんから、一人にしてや・・・。」
俺が、どれだけ蔵を好きでも・・・、
「・・・・・・・・・・・・。」
白石の気持ちまでを、
俺が決め付ける事はできないから―――
「・・・『謙也、オレの事好きとちゃうんやて・・・』・・・。」
「は・・・?」
「・・・『オレがどれだけ謙也の事好きでも、
謙也はちゃうんやて・・・』・・・。」
光は・・・何を、言っているのだろうか・・・?
何が、言いたいのだろうか・・・?
俺に―――
「・・・『謙也の事、オレめっちゃ好きなのに・・・、
オレ、何か謙也にしたんやろか・・・?』・・・。」
「ひか・・・、何の事―――」
「・・・『オレが近くにいたら、
謙也それだけで嫌なのかもしれん・・・』。」
・・・分からなくて、
何の事だかさっぱり分からなくて・・・、
ただ、聞いていた。
「『謙也の事、めっちゃ大好きなのに、つらいー・・・』。」
「だからひかるっ・・・―――」
「俺に泣きついてきた時、
部長が言っとった言葉です。
謙也さん、あんな純粋に愛されとるのに、
何で分からんのですか?
・・・白石部長は、真剣なんスよ、
あんたみたいなアホの為に、頭悩ませてるんです」
白石の気持ちを疑って、
信じなかったのは俺の方だった。
俺なんかの為に白石が、
悩んだ事を知る事なんてなかった。
しかし、俺は白石に『嫌い』とか『迷惑』とか
言った記憶なんてさらさらない。
それなのに、何で白石はそんなに悩んだのだろうか・・・?
俺が白石に告白したのもつい最近の事なのに、
何故・・・?
「・・・何で・・・、そんな事言うたのやろ・・・?
白石・・・。」
「・・・は?謙也さん、
部長の事を突き放した記憶ないんですか・・・?」
「・・・ん、全くあらへん。」
本当に、記憶になかった。
少なくとも絶対に俺ではない・・・、確信がある。
「!・・・あぁー・・・、なるほど・・・―――」
瞬間、光がそう言ったのだ。
「何や、一人で何納得してんのや、
俺にも教えろやぁ!!」
「ほんまアホですね、謙也さん。」
「はぁ!!!??」
「・・・謙也さん本人やないとしたら第三者が
それを部長に吹き込んだっちゅう事やないですか、
『謙也が白石の事嫌っとる』って。」
・・・そうや、それで決まりや・・・ッ!!!
よっし、目にもの見せたるから待ってろや――!!
「・・・って、誰が言っとったか俺知らんやん・・・
せや、光その男見とったんやろ!?
名前は!?クラスは!?番号は!?」
「あぁ、知ってますけど教えません。」
「はぁああ!!??」
何っちゅー奴やこのっ!
「謙也さんに教えると
暴力沙汰になり兼ねませんから。
暴力沙汰になったら今度の大会
俺ら出られなくなりますし・・・」
「それにしてもなぁあ!!
このままじゃ白石が・・・―――」
「あんたには、別にやる事があるやないですか」
あ、いつもの光や。
憎たらしいけど何や俺に伝えようとしている・・・、
そんな感じがするのだ。
・・・腹立つけど。
「・・・謙也さんの誤解を解く事が、
今のあんたの第一課題ですよ。
このままでえぇんですか?」
「うぐっ・・・そらそやけど・・・―――」
「ほな行ってきて下さい。
部長は多分もう来てるでしょうから・・・―――」
「・・・しゃ・・・しゃーないわ・・・」
白石に何か吹き込んだ奴一回殴らんと
気ぃすまんけど・・・―――
「大丈夫ですよ謙也さん、
部長に何か吹き込んだ奴は俺がカタつけときますから」
光が何か言っている気がしたけれど、
俺は部室へ戻る事にした。
早よ白石がしてる誤解・・・、解かな―――
「待っとけや白石ぃいい―――ッ!!!」
「ほんまあの人純情やな・・・
さて・・・、俺はアイツどうしたろっかなー・・・」
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