―――「このままでえぇんですか?」―――

■ユメノアトデ




白石に誰が何を吹き込んだかは知らないけれど、
光の言う通り、このままで良いはずがない。
俺自身が白石と離れるのが嫌だと、
素直にそう思った。

誤解をしているのなら、
解いて安心させなければいけない。

―――俺が、白石を嫌いなはずないんやから・・・!!

確かに相手を信じ切れていなかったのは
俺の方だったと思うけれど、
それなら俺自身の気持ちも
白石に言わなければいけない。

それじゃないと誤解はずっと解けないばかりか・・・、
離れていく。
あの夢と同じように白石が俺の元から離れて行ったように・・・

―――現実も。

俺の感情はただの我侭、独占欲、
勝手かもしれないけれど―――


「っ・・・不安にさせるような事、
 俺・・・白石に、したん?」


何かを誰かに吹き込まれた、
それだけであんなに俺を拒絶するのだろうか・・・?
あんなに構えて、
怯える必要があるだろうか・・・?

いつも冷静な、蔵が。


((―――バタン・・・ッ、!―――))



【部室】

「白石・・・っ!!!―――」


「!」


部室には、一つだけ影があるだけだった。
俺が、今一番会いたいけれど、
会いたくない人物。

俺の、一番大切な存在。


「・・・謙・・・、也。」


「あ・・・えと・・・、白石・・・小春らは・・・?」


今訊きたいのは、そんな事ではないのに。
いざ問うとなると何から話せばいいのかが
分からなくなる。

にこりと、寂しげに微笑んだ。
何処か淋しげに・・・微笑んだ。


「・・・小春ら、練習行ったで。
 オレももう行くから、謙也も早く準備しいや・・・。」


最初の言葉から最後の言葉まで、
俺と視線を合わせなかった。
逃げるように、避けるように・・・―――俺から。


「誤解っ・・・―――」


「え・・・?」


自然と出た俺のその言葉に呼び止められるように、
足を止めて、俺を振り返る。


「・・・誤解・・・、俺・・・白石の事・・・
 嫌いな訳、ない・・・っ!!」


「・・・あ・・・あぁ、そか・・・―――」


「本気やし・・・!!
 真面目に言ってんねんで・・・!?俺っ・・・。」


先程一瞬目を合わせてから、
また視線を俺から外した。

・・・何と言えば良いのかが全く分からない。
色々考えてしまって、
脳裏に浮かぶ全ての言葉を纏めて、
繋げる事が出来ない。
何を一番言いたいのかが分からなくて、
自分でも動揺する。

こんなにも、
色々な事を一気に考えた事はなかった。
そのせいで、不安が・・・、
不安だけが心臓の所に集中している。

俺が想っている程、果たして白石は俺の事を
想ってくれているのだろうか・・・?

正直なところ、何も分からない。
いざとなった時、分からなくなってしまう。
想いが浅い訳じゃないと、信じたいのに・・・―――


「・・・白石・・・っ―――」


「なぁ・・・、謙也・・・?」


初めて開かれたその口に、
合わせた視線に、何も言えなくなる。
沈黙が俺と白石を包み、
時計の秒針だけの音が聴こえる。


「・・・何で・・・、目ぇ合わせてくれへんの・・・?」


瞳が、表情が、
映し出していたのは―――哀しみと淋しさ。


「・・・やっぱり、オレの事・・・飽きた・・・?」


にこりと微笑むのと同時に、
白石の頬に―――雫が、伝った。


「違っ―――」


「・・・聞いたんや・・・、あいつに・・・。」


「何・・・を・・・―――」


「あのなぁ謙也・・・
 『謙也がお前の事鬱陶しいてしゃーないって言うてたで』
 って・・・―――」


そんな事、言った覚えはない。

ましてや、白石の事を俺が悪く言うはずがない。
天変地異が起きてもそんな事言うはずない、
絶対に言わん・・・!!

―――誰が、そんな事を・・・、何の為に・・・?


「・・・ごめんなぁ・・・オレ、謙也の気持ち考えんと・・・
 自己中やったみたいや・・・
 謙也の事好きで好きでしゃーないのに・・・
 迷惑、かけとったみた・・・―――」


「だから・・・っっ!!!!!」


「け・・・んや・・・?」


・・・気が付けば、抱き締めていた。
華奢な蔵の身体を、
無意識に抱き締めていた―――

アホは、どっちやねん・・・。

俺の方や・・・。


「俺がっ・・・白石の事・・・、
 悪く言う訳ないやん・・・―――」


「せ・・・、せやけどっ・・・―――」


白石は、俺への気持ちを言ってくれた。
次は、俺の番やろ?


「俺から、直接聞いた訳とちゃうやろ・・・?
 俺が、不安にさせとっただけやねん・・・、
 ごめっ・・・―――なぁ白石、俺・・・白石に何かしたん・・・?
 不安にさせるような事・・・したん・・・?  ごめん、全部謝るから・・・!!」


「謙也・・・ちょ・・・っ―――あの・・・。」


「・・・白石、何も悪くあらへん・・・っ悪いの、
 全部俺の方やからっ・・・
 やって・・・、誰かに何か吹き込まれて、
 それを信じたんは・・・、
 普段から俺が白石を不安にさせるような行動、
 とってたからやろ・・・?俺―――」


「・・・・・・・・・・・・。」


―――不意に、
顔を優しく包まれて持ち上げられる感覚が過った。


「・・・謙也、オレの事好き・・・?」


「当たり前やん・・・!何で―――」


「オレも、謙也大好きや・・・」


ふわりと微笑むその表情が綺麗で―――

俺の中で込み上げていた何かが、
溜め込んでいた何かが解放された気がした。
視線をしっかり合わせてくれる。

優しい空気に包まれた。


「・・・ところで白石?」


「え?な、何・・・?」


「何で、一番に相談したんが光やったん?」


そうだ、白石がこの事を話したのは光にだけだった。
頭では割り切っていても、俺には不安が、
疑いがまだあったのかもしれない。

―――せやけど、何や妬けるんやもん・・・。

白石が俺以外の奴に泣き付くのを想像すると、妬ける。


「・・・えっ・・・あ・・・それは・・・、
 ちゅーか、何でそれ知ってんねん・・・!!?」


一瞬、赤らめた顔。
おぉ、めっちゃ可愛え!!


「で?何でや?何で俺に話さんかったん?」


にこにこしながら訊いてみる。
白石がどんな答えを出すかとそれだけを考えていた。


「・・・ぅーと・・・、そのー・・・」


「何や、早よ言えや・・・?」


「あー・・・、だからな・・・えと・・・―――
 ほんまは・・・謙也に一番に話したら
 良かったんやと思ったんやけど・・・
 あの時・・・、謙也のとこ行ったら・・・
 泣いてまいそうで・・・―――」


「そら光かて同じやん?」


「・・・やって、恥ずかしいやん・・・―――」


小声でよく聞き取れなかったけれど、
白石がそう言った。
恥ずかしいて・・・光に言ってもんなもん
同じやんで・・・?何でやろ・・・?


「お、オレが想っとる程謙也がオレの事好きやなかったら・・・、
 恥ずかしいやん・・・
 泣き付いた相手の事で頭フル回転させとるって言ったら・・・
 謙也、笑うやろ・・・?
 ・・・あの時財前が言ってくれたんや・・・
 校舎裏の陰におったの財前だけで、言ったんや。
 『あぁ、泣き顔見ませんから安心して下さい。
  悩み事なら相談にのりますよ、
  どうせどっかのアホな人の事で悩んどるんでしょうし・・・』
  って・・・―――
 オレかて必死やったんやもんー・・・」


・・・可愛え!!めっちゃめっちゃ可愛え!!
何やこの可愛え美人さん・・・!!!

俺の事でそんなに悩んでいたという事や、
俺の事を考えてくれていた白石が可愛くて。

打ち明けられて、やっと理解できた・・・―――白石の気持ち。
疑ったりしていた自分が少し恥ずかしくなる。

―――こんなに、愛されているのに・・・―――


「白石」


「え・・・?」




「俺、白石の事めっちゃ大好きや・・・
 今のでもっと好きになった、好き・・・!!
 フォールインラブや・・・!!!」


「はっ・・・恥ずかしい言葉連呼すんなや・・・
 あ、アホ・・・っ!!!」


あぁ〜・・・俺こんなに幸せでえぇんやろか・・・?


「・・・謙也、顔ニヤけてるで・・・?
 めっさキモイ・・・」


「キモ・・・っ―――てぇ、
 そないな言い方はないやろー!!
 酷いわぁ白石ぃい!!
 俺白石にめっさベタボレやねん・・・!!!」


「分かった分かった、
 ほなさっさと練習始めるで、小春ら待っとるわ」


「せやな!!行くかー!!」


夢で最悪の結果でも、
現実はきっと変えられるのかもしれないと思った。
今朝の夢は最悪なものだったけれど、
今日は最高の日になっている。
夢と現実を混同させてはいけない。

事実をを決める気持ちは、
俺自身の気持ちと相手の気持ちだと感じた。

自分が一番大切だと思っている人と
ずっと一緒にいられるのなら、
きっと、きっと、
それは幸せのままで終幕を迎えられると・・・―――


≪白石がめっちゃ大好きや≫

≪絶対手放したらあかん≫


その気持ちだけで―――




BacKNexT

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