■革命の蒼穹




今になって見ていると、
僕は相変わらず女顔で変わっていないと思うけれど、

彼――僕の双子の兄は、
見違えるほど男らしく成長した。
しかし、気が短いのは変わらず、
すぐに熱くなる性質は残っている。
口も悪くなったけれど、
僕に優しいのは変わらなかった。


四年前、僕と兄さんを引き取ってくれた
叔父さんと兄さんは口論になり、
今から丁度五年前に僕達は
叔父さんに黙って家を出た。

最初叔父さんは
僕だけは預ってくれると言っていたけれど、
兄さんがそれを拒否したのだ。

僕に有無を言わさずに、
兄さんは僕と一緒に叔父さんの家を出た。

しかし、口論の原因は全て叔父にあったようだ。
何故か、叔父さんは兄さんが気に入らない様子で、
いつも暴力に明け暮れる毎日だった。

兄さんばかりを目の敵にしていて、
僕には指一本触れなかった。

いつも夜中、
今の明かりが灯されている事を不審に思った僕は、
その時叔父さんの暴力を知った。
兄さんの男らしい顔はもう殴られたり蹴飛ばされたり。
出血してもそんな事は気にする事無く、
叔父さんは暴行を続けていた。

見ていられなくなって・・・――
でも飛び出す勇気が無くて・・・。

僕は部屋に戻って怯えている事しか出来なかった。



〔四年前〕

「うるせぇよ!!
 何でお前の言う事なんか聞かなきゃならねぇんだ!!!」


夜中、不意に目が覚め、起き上がってみると、
下の居間からそんな声がした。
その声は兄さんのものだと確信して、
僕は不思議に思いながらも居間へ向かった。


「何だその口の利き方は!!
 それが世話になっている恩人に言う台詞なのか!!」


今度は叔父さんの声がした。
何を口論しているのだろうか、そう思い、
僕は扉の隙間から中の様子を覗いた。
そして、次の瞬間驚いた。


((――・・・バシィィイイイ・・・ッ――))


「ッ・・・!!??」


叔父さんが、兄さんの顔面を思いきり殴ったのだ。

「ってぇ・・・――何すんだよこの野郎ッ!!!」

兄さんの口の端からは出血が出ていて、物凄く痛々しかった。
何故叔父さんと兄さんはこんな事をしているの・・・?
目の前の事実が信じられなくて、その時はその一心だけだった。

((――・・・ガッタンッ・・・――))

「兄さ・・・ッ――」

今度は、叔父が乱暴に兄の体を壁に投げつけ、
傍にあった灰皿で兄の頭上を思いきり殴ったのだ。
――・・・嫌だ、このままだったら兄さんが死んじゃう・・・―――

叔父さんに殺されてしまうッ・・・!!

飛び出したかったけれど、
そんな勇気が僕には無くて――
そのまま、目を閉じ、耳を塞ぎ、
二階の僕と兄さんの部屋へ
逃げるように戻ってしまった。



〔部屋〕

部屋で暫く先程見た光景に怯えていると、
階段を上がる音が聞こえた。


「ッ・・・!!」


どうしよう、叔父さんだったら・・・――
見てたの・・・気付かれていたのかな・・・――
嫌だ、怖いよ・・・ッ――


「・・・霞猪・・・。」


声は、兄さんのものだった。


「兄さ・・・――」


顔を上げると、
暗がりであまりよく分からなかったけれど、
とても痛々しい顔は薄らと見えた。

悲しそうな表情で、兄さんが僕を見据えた。


「・・・霞猪・・・今の・・・見てたよな・・・?――」


兄さんは、気付いていたんだ・・・――
僕はその言葉で、
思いきり溜まっていた涙が頬を伝って零れた。

兄さんは生きていた――
よかった、本当によかった・・・――


「霞猪・・・泣いてるのか・・・?」


「・・・ッだって・・・兄さん・・・が・・・――」


兄さんが、あんな事を今までずっとされていただなんて、
僕は全く知らなかった・・・。
いつも怪我ばかりしているのは気付いていたけれど、
まさか虐待をされていただなんて――

つらくてつらくて、痛くて――


「・・・に・・・いさん・・・――死んじゃ嫌・・・だ・・・――」


「・・・霞猪・・・心配するなよ、お前だけ置いて、俺はいなくならねぇから。
 ――絶対ぇにな・・・。」


兄さんが痛くて・・・苦しくて・・・――
見ていられない――


「・・・う・・・ん・・・――」



それから一年後、
丁度叔父さんが出張で出払っている時に、
僕と兄さんはその家を出た。




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