■革命の蒼穹




「?霞猪、さっきから何だ。
 私の顔に何か付いているのか?」


「え?」


そう言って胡蝶は自分の右頬に、
自分の白くて細い手を軽く触れさせる。
その仕草も、やはり綺麗だなと思うのだ。

口調も珍しいけれど、目つきまで鋭い。
だからといって全然怖い訳ではなくて、
ただ迫力があるだけで。


髪も綺麗で肌も白い。
全体的にも華奢で、本当に物凄く綺麗な少女だなとは思う。
そして何故か、明るい色よりも暗い色の方がよく映える。

何故だろう・・・――分からないけれど、

でも・・・胡蝶が綺麗なのは事実なのだ。
学校の男子にだって異常な人気を誇っている。
ほぼ毎日告白されているようなものだから・・・

――本当に胡蝶には驚かされる。


僕と兄さん、胡蝶が通う学校は頭脳明晰、
運動面も優秀な非常に有名な学校なのだ。
普通の学校と違う事は無いと思うのだけれど。

ただ、幼等部から高等部まで
全てが同じ学校で授業を受けている。
それだけだ。


胡蝶は頭も良い。
テストもほとんど上位三名の中には入っている。
最初出会った頃は、
僕も兄さんも本当に知らない存在だったのに。
きっかけなんて、忘れてしまったけれど。



〔二年前〕

僕と兄さんは中学一年の頃に、
胡蝶を知ったのだ。


「ねぇ・・・良かったの・・・?
 勝手に叔父さんの家出てきちゃって・・・――」


「うるせぇ・・・。」

僕と兄さんは叔父さんの家を出たばかりで、
まだ生きていく為の家も無かった。

食料は叔父さんの家の冷蔵庫から持ってきたものと、
叔母さんから預かっていたお金がある。
叔父さんは物凄く乱暴だったけれど、
逆に叔母さんは叔父さんのその横暴さに
いい加減疲れていたらしい。

だからいつも叔父には秘密で
僕達に早くあの家から出て行けるようにと、
いつもお小遣いをくれていた。
そのお金のお蔭で僕達は学校に通っていたのだ。


中学生ではあったけれど、
少しでも叔母さんへの負担の手助けとなるように、
兄と僕は新聞配達のアルバイトをしたり、
いけない事だと分かっていても・・・
年齢を誤魔化して色々な仕事をしていたりもした。

そんな時、彼女に会ったのだ。


「・・・・・・・・・・・・。」


僕が新聞配達をしていて、
朝早く神社の前を通った時、彼女に出会った。

直接彼女が神社の前にいた訳ではない。
神社の近くにある綺麗に透き通る水が汲まれた池に
細くて白い両足を浸けていた。

肌は白いけれど、長い黒髪が綺麗に靡いていて、
黒い衣服を着て水面を眺めていたのだ。
横顔だった故最初は分からなかったけれど・・・――


「・・・お前・・・誰・・・?」


僕に気付いたのだろうか、
水面に視線を落とした横顔のまま、
小さく細い声でそう一言。

その声も物凄く透き通っていて、
まるで静かな教会に響く鈴のような綺麗な声だ。
僕は思わず言葉を失ってしまった。


「・・・誰・・・?」


彼女の声で我に返り、言葉を脳内で探す。


「えっ・・・あの・・・僕はだだ・・・――」


次の瞬間、彼女が顔を上げた。
そして、無表情ではあったけれど、
彼女は初めて僕を正面から見た。

――その綺麗に整った顔に、僕も物凄く驚いた。

人間ではなくて、綺麗な日本人形のように整った顔立ち。
瞳の色が左右異色で、何処と無く不思議な雰囲気を漂わせている。

恐ろしい程に綺麗なその顔立ち。
一瞬で顔が熱くなるのが、自分でも分かった。
それが何かは分からないけれど、
やはり僕を惹きつけるものがあった。


「・・・・・・・・・・・・。」


――でも、

何故こんな綺麗な少女がこんな朝早くにこんな場所にいる?


「あの・・・――」


「・・・お前・・・帰る家が、無いのか・・・?――」


「えっ・・・!?――」


突然そんな事を聞かれた。

――何故分かったのだろうか?

確かに僕と兄さんには今、住む場所が無い。
公園や空き地、人気の少ない場所にテントを張って、
そこで暮らしている。

アルバイトの関係もあって場所は定着していないのだ。
兄さんも僕もまだ学費と給食費を払うのが精一杯で、
何処かに住めるという程のお金が無かった。




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