■革命の蒼穹■
クスリと静かに微笑み、
もう一度僕達二人と視線を合わせる。
「お前の名前は・・・――」
兄さんが起き上がり、彼女を見遣る。
「・・・瑞羽胡蝶・・・。」
「お前だって・・・綺麗な名前じゃねぇか・・・。」
兄さんが微笑む。
「・・・ん?でも・・・瑞羽・・・って・・・
どっかで聞いた事あるような・・・――」
「うん、僕もそこ引っかかってるんだよね、やっぱり兄さんも?」
「あぁ・・・何処で聞いたんだっけなー・・・」
「そんなに、名誉のある名前じゃない。
今はこの名前を・・・私は個として恨んでいる――」
「え・・・っ」
「・・・こっちの話だ。」
「それじゃあ俺達、
近々学校にいられなくなるみたいだから・・・さ。」
苦笑して、兄さんは僕を引き起こして
玄関への階段を降りようとした。
――しかし、その瞬間、胡蝶が僕達二人を呼ぶ。
「霞猪、胡深、お前達・・・――私の家に来い。」
そう言って。
「え・・・っ――」
これには流石に僕も兄さんも驚いて、
眼を丸くする。
突然、言われたのだから。
「胡蝶・・・?――」
「私も・・・母親が小さい頃に死んだ。
父親は今海外にいるけれど・・・帰らないで、
もう十二年も経っている――
海外にいる親が払ってくれている訳でもない・・・。
私だって、この学校の似非教員の餌食と同じだ。」
視線を外して胡蝶が言う。
――胡蝶が・・・?
――胡蝶が、似非職員の餌食・・・?
――胡蝶が、僕達と同じ立場・・・?
「う・・・そ・・・?――」
信じられなかった。
こんな綺麗な少女が、僕達と同じだったなんて。
僕達と同じ、つらい人間だったなんて・・・――
「お前・・・も・・・って・・・――」
「・・・さっきも言った。
この学校には聖教師面をした似非職員が多い。
・・・分かるか・・・?苦学生皆に非道極まりない行為を平気な顔でする。
親がいなくて、必死に自分達だけで稼いでいるまだ幼い人間を――
そんなの、虐待しているも同じだ。
必死に稼いでこの学校に通う為の学費や給食費を払っているのに、
その金を自分達個人だけの事に簡単に使っている。」
「・・・胡・・・蝶・・・――」
「・・・私は、瑞羽理事長の遠縁だ。
私とていい加減、奴の行動に嫌気がさしてきている・・・
あいつの行動は・・・、信じられない。」
「それか・・・!!!」
「だからもう、この学校にいる意味はない。
・・・でも・・・お前達がこの学校に残るのならば、
引き止めはしない。」
そう言うとまたあの物凄く悲しそうな表情を浮かべる。
が、すぐにそれは憎しみ、憎悪だけの表情にもなった。
――怖い。
「胡蝶・・・お前・・・俺達を助ける・・・って事か・・・?」
「・・・?」
「だったら、助けてくれよ・・・!
俺・・・この学校がそんな汚ぇ学校だったなんて
知らなかったんだ・・・!!
こんな学校・・・いたくねぇよ・・・――」
兄さんがその一声を上げ、僕もその声に頷き、同意した。
この学校が、そんな汚い学校だったなんて信じられない。
けれど、胡蝶は冗談や嘘であんな表情は見せないだろう。
だから、選択を後悔しないように、信じて同意した。
「胡深・・・霞猪・・・。
すまないな・・・――無理を言った・・・。」
悲しそうな表情を浮かべて。
その出来事から二週間後、僕と兄さん、胡蝶はその学校を辞め、
今の学校へと移った。
そして、瑞羽胡蝶と名乗る少女の家に、
住まわせてもらう事になった。
それからもう、暫く経った今に至る。
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