■革命の蒼穹<[>■




「胡蝶様、霞猪様、胡深様・・・
 そろそろ学校へ行かれるお時間ですよ。」


執事の芽喩さんが、胡蝶と僕と兄さんにそう告げる。
時計の針の指す時間を見てみると、
もう八時を回っていた。


登校時間は七時から八時半で、
僕達はいつもこの時間にこの胡蝶の家を出ている。
学校までの道のりはこの場所からは結構近く、
その上自転車通学が許可されているので、
時間は余る程なのだけれど。


今、僕達は高等部二年である。

幼等部から高等部まで同じ学園なので、
他の生徒は大体だが持ち上がりではあるけれど、
僕たちは途中からの外部入学だ。

この学校に転校してきてから一緒に転校してきたせいか、
僕達皆が同じ学級になった事は一度も無かった。

しかし偶然今年のクラス替えで、胡蝶と僕と兄さん、
皆同じ学級になった。

さすがに胡蝶は始めて出会った頃より、
その数倍綺麗になっていて、
兄さんはとても男らしく、格好良くなっていた。

僕だけが何の変化も遂げていなくて、
何だか置き去りにされている気がする。
変声期もまだで、正直困っている。


「分かった、行ってくる。」


胡蝶が言う。


「行ってきます。」


「行ってくるぜー!」


それぞれの一声で、家の玄関を出た。



〔通学路〕

いつもこの道を通る。
桜は散って、今はもう緑の葉が涼しく茂っている。
初めてこの道を三人で通った時は、
桜が満開でとても心地良かった。


通学路として最初に道を通った時は、
僕と兄さんの二人だけだった。

胡蝶がいなかったのだ。

この道は、僕が初めて胡蝶と出会った神社の近く。
兄さんと僕の二人だけでこの道を通った時、
何気に神社のあの池を見てみると、
またあの場所に胡蝶がいた。
あの透き通るとても澄んだ池の水に、
胡蝶がまた足を浸けていた。

あの日見た胡蝶は、最初に僕が見た服装ではなくて、
僕と兄さんと同じ学校の指定制服。
黒と赤で彩られたその制服。

胡蝶はスカートとソックスを濡らさぬようにと、
スカートは軽く膝に捲り上げ、
ソックスは綺麗に胡蝶の横に畳んで置いてあった。
いつも軽く後ろ右側に結っている髪も解いていて、
その結い紐はソックスと一緒に置いてある。

靡いた髪を見て、僕は胡蝶と初めて出会った時の事を
思い出してしまった。
でも、今はこうしていつも同じ道、
同じ通学路を通って学校へ向かう。


あの頃、僕は何を考え、見つめていたのだろうか。
今、僕に何が必要なのだろうか。
そんな事ばかり最近考えてしまうのだ。

そう言えば、

今考えてみれば不思議な事に気がつく。
胡蝶に出会う前、あの母親と父親を一瞬で燃え尽くした大火事。
あの日は確か、仏滅の日。

胡蝶に初めて出会ったのも、その何年後かの、
大火事の日と同じ日の仏滅の日。

転校した後、胡蝶だけがいなくて、
僕と兄さんだけでこの道を通った日も
同じ仏滅の日・・・?

――・・・ただの、偶然だよね。


「おい霞猪。」


「え・・・っ!?」


突然声をかけられて驚く。
声の主は胡蝶だった。

「お前話聞いてなかったのかよ?」


兄さんにもそう言われた・・・。
・・・すみません・・・。


「・・・まぁいい。今日、私達の家にもう一人居候が増える。
 それだけだ。」


「え?そうなの・・・?」


「お前・・・やはり聞いていなかったのか・・・。」


呆れたような口調で胡蝶に言われる。
まぁ、仕方ないけれど。


「なぁ胡蝶、それで?
 その居候ってどんな奴なんだよ?」


兄さんが問うが、胡蝶は兄さんの質問に「会えば分かる。」と一言だけ。
やっぱり、胡蝶ってあまり人と話すタイプじゃないんだな・・・
――と改めて思う。

男子にも女子にも人気はあるのに、
あまり人と話さないから勿体無い。
嫌われている、と、相手が勝手に誤解をしてしまうからだろうけれど。

実際、毎日告白のようなものもされているようではあるし、

学校の登下校時には、古典的ではあるが、
異常な量の手紙が靴箱の中に入っていたりする。
胡蝶はそれを捨てはしないが、読む事もない。
時々机の中にまでやたらと入っていて、
物凄く困っている様子ではあるが。
運動神経も物凄く良くて、あちこちの運動部から
勧誘されているのをよく見る。

頭も良い。
語学や他は普通として、技術的な教科も全て完璧なのだ。

他の学校から見ても頭脳明晰、
運動能力も並外れて素晴らしいこの学校の中で、
更に完璧に近い少女、それが胡蝶なのだ。
憧れたり、恋愛感情を抱く生徒は沢山いるのだろう。


そういう面では、
兄さんも結構人気がある。
胡蝶曰く、兄さんは勉学の方は
大した事はないらしいけれど。

胡蝶と兄さんは席が隣同士で、
僕は胡蝶の後ろの生徒の斜め後ろである。

テストを返された時、兄さんの点数を知るのはいつも胡蝶だけ。
僕には少しも教えてはくれない。
というか、胡蝶が確実に兄さんの点数を知る理由は、
「偶然席が隣同士だから。」と、それだけである。

胡蝶が無理矢理横から兄さんの点数を見ているのである。


しかしそんな兄さんも、運動神経だけは、ずば抜けて良いのだ。
そして物凄く格好良くて、女子生徒達にも結構人気がある方だ。
明るい性格だから、友達もかなりと多くて。


だけど、僕には何もない。
女顔であるし、得意な科目といえば
美術や家庭科等の技術的な副教科しかない。
人と関わるもの少し苦手なのだ。

それでもそんな僕に言い寄ってくる女子生徒とは何なのであろうか。
本気で僕に言い寄ってくる生徒なんていないのだろうけれど。

本当、胡蝶や兄さんが羨ましくなる。
胡蝶はあまり他の生徒とは話さないけれど、
僕と兄さんとは昔の縁があるせいか、よく話す。

まぁ、胡蝶から僕達に話しかける事は滅多にないのだけれど。



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